お葬式コラム

ご遺骨を身近に置く、手元供養という考え方。

生活様式の変化などから、お墓の継承をむずかしいと感じるご家庭が増えているようです。また、大切な故人のご遺骨を遠くのお墓ではなく、身近に置いてともに暮らしたいと考える方もいらっしゃいます。
そこで注目されているのが、「手元供養」。時代とともに多様化する供養への考え方にあわせて登場した、新しいスタイルです。今回のコラムでは、種類や方法、メリット・デメリットなど、まだまだ広く知られていない手元供養について詳しくご説明します。

手元供養とは、どうゆうものなの?

「手元供養」は、ご遺骨や遺灰をお墓に納めるのではなく、身近なところに置いて供養すること。ご自宅でご遺骨を保管することから、「自宅供養」とも呼ばれます。
手元供養の登場は2000年代に入ってからだといわれています。その浅い歴史にも関わらず、近年に広がりをみせているのは、現代の生活様式とマッチしている供養方法だからでしょう。故人の冥福を祈ることを〈供養〉といいますが、昔は近所に菩提寺があったり、ご自宅に仏壇があったりして、供養が日々の暮らしのなかで当たり前に存在していました。しかし現代では、〈お墓が遠方にあってなかなかお参りできない〉〈マンションに仏壇を置くスペースがない〉など手を合わせて祈る対象が身近にないご家庭が増えています。
日本には昔から行われてきた供養方法があり、伝統を守ることも大切にされています。一方で、時代の変化とともに供養への考え方が柔軟になっていき、現代の生活様式にあわせた新しいスタイルも受け入れられています。今は、供養方法を選べる時代です。故人を感じながらご遺骨といっしょに暮らせる手元供養も、選択できる供養方法のひとつなのです。

自宅に遺骨を置いておいても問題ないの?

ご遺骨を自宅で保管しても法律上の問題はありません。日本の「墓地、埋葬等に関する法律」(通称「墓埋法」)では、行政が許可した墓地以外にご遺骨を勝手に埋葬することは禁じられています。
例えば、身近な場所で供養したいからといって、ご遺骨をご自宅の庭に埋めてはいけません。しかし、ご自宅で保管することに関しては違法にならず、ご遺骨とご家族がとともに暮らしてもなんら不都合はないのです。

ご遺骨の保管方法は、〈すべて〉か〈一部〉。

手元供養では、ご遺骨の保管方法は大きくわけて2つあります。手元供養を行うときは、まず〈どちらの保管方法にするのか?〉をセレクトしましょう。どちらを選んでもかまわないので、供養への考え方や生活スタイルなどを考慮し、ご家族でしっかり話し合ってお決めください。

保管方法(1)分骨安置

「分骨安置」は、ご遺骨の一部を手元に置く方法。手元に置かないご遺骨は、〈お墓や納骨堂などに納骨する〉のが大半です。そのほか、〈樹木葬にする〉〈海や山などに散骨する〉なども選択できます。
ただし、分骨安置には注意が必要です。ご遺骨をわける「分骨」は法律上の問題はないのですが、手元供養にしないご遺骨を〈お墓や納骨堂に納めたい〉となったときには「分骨証明書」が必須。火葬時に取りわけるケースでは〈火葬場〉に、お墓から取りだすのであれば〈墓地の管理者〉に発行してもらいます。直接または、葬儀社をとおして連絡しておくといいでしょう。
また、火葬場で分骨するのであれば、骨上げのときにご遺骨をわけるので必要数の骨壺を用意します。葬儀社に頼んでおくと準備してもらえるケースもあるので、担当者に相談してみてください。

保管方法(2)全骨安置

「全骨安置」は、すべてのご遺骨を自宅に保管する方法。以前は分骨してご遺骨の一部だけを手元に置くケースが多かったのですが、最近はお墓への納骨にこだわらず、すべてのお骨をご自宅に保管して供養する方も増えているようです。
ご自宅での保管は火葬後にお骨を納めた骨壺のままでも、別の容器に移し替えてもかまいません。主に東日本で行われている全骨拾骨の場合は骨壺がどうしても大きくなるため、ご遺骨を粉骨して体積を減らし、小ぶりの骨壺に納める方法もあるようです。ちなみに、粉骨してパウダー状にすると1/4もしくは1/5程度の体積になるといわれています。
また、ご遺体を火葬すると「埋葬証明書」を取得できます。こちらは埋葬時に必要なものなので手元供養では使わず、どこかに提出することもありません。とはいえ、手元で保管するご遺骨も、ゆくゆくはどこかに納骨されるケースがほとんど。そのときには埋葬証明書が不可欠なので、紛失しないよう保管しておきましょう。全骨安置では、分骨安置のような証明書は不要です。

手元供養の方法と選ぶ基準。

近年に登場した新しい供養スタイルである手元供養には、厳密な決まりごとがありません。すべてのお骨をそのままのカタチで保存する場合は火葬後にご遺骨を納めた骨壺で安置するのが一般的ですが、粉骨や分骨の場合は多様な方法や保管容器から選べます。 多くの種類を前にして、〈どの手元供養の方法を選べばいいのか?〉 と迷う方もいらっしゃるでしょう。まずは以下の基準を参考にし、自分の希望を考えてみてください。
〈基準1〉お骨のままのカタチを残すか? 加工してカタチを変えるか?
〈基準2〉持ち運ばずにご自宅に安置するか? 身につけて持ち運びたいか?
こちらの基準などからご自身の希望を認識できると、バリエーション豊富な種類から好みにあった手元供養を選びやすくなります。よく選ばれている主な方法はこちらです。

仏壇に骨壺を安置する

ご自宅に仏壇がある場合は、そこに骨壺を安置するのがスタンダード。四十九日までは後飾りの祭壇で供養し、その後は仏壇のなかのスペースに安置します。近年はあらかじめ骨壺が置ける場所を設けている仏壇も販売されているようなので、新たに購入するときはそちらを選んでもいいでしょう。
保管する骨壺は仏壇内のスペースに余裕があるなら火葬後に拾骨した骨壺のままでも問題ないのですが、ご遺骨のカビ予防のために密封性の高い手元供養用の骨壺に入れ替えたほうがいいという向きもあります。大きな骨壺が置けないときは、粉骨したり、分骨安置にしたりしてご遺骨の体積を減らし、サイズダウンした骨壺に移し替えるのがおすすめです。
ひとつ注意が必要なのが、手元供養する故人以外のご先祖を仏壇に祀っているケース。存在感のある骨壺は、どうしても目立ってしまいます。ほかの先祖の法要を行うときは、目立たない場所に移動させるなどの配慮をしましょう。また、仏壇は本尊を祀る小さな寺院だとも考えられています。骨壺を安置するのはふさわしくないと考える方がいることも認識しておいてください。

ミニ骨壺に移して祈りのスペースに置く

仏壇をもっていない・設置するスペースがない方に人気なのが、故人の冥福を祈るスペースをつくって骨壺を安置する方法です。近年は祈りの空間をつくる手元供養用のステージや小さな仏壇も種類豊富にそろっています。モダンなデザインを施した商品も多いので、生活空間に設置しても違和感がありません。専用のものを使わず、ご自身でスペースを演出してもいいでしょう。飾る仏具に決まりはありませんが、おりん、花立、香炉、仏飯器、ろうそく立てなどがあると供養がしやすくなります。
ご遺骨の保管には、手元供養専用のミニ骨壺を使用するのが一般的です。粉骨してパウダー状にした遺灰や、分骨した一部のご遺骨を納めましょう。ミニ骨壺のデザインは、〈骨壺=白〉というイメージからは想像できない、モダンでおしゃれなものがたくさん販売されています。素材も陶器や木、ガラスなどが採用され、豊富なバリエーションからお好みのものを選べます。

ぬいぐるみや人形にご遺骨を納める

最近は、ぬいぐるみや人形のなかにご遺骨を納める商品も発売されています。多くは真鍮などを素材とした小さな骨壺に遺灰やご遺骨の一部を納め、ぬいぐるみのなかに入れるようになっています。また、地蔵を模した人形のなかに小さな骨壺をセットするものも発売されています。
かわいい見た目からはご遺骨が入っていると想像できないため、インテリアとして飾っても違和感がなく、ぬいぐるみであれば抱きしめることも可能。故人をより身近に感じたい方や明るい気持ちで供養したい方から支持を得ている手元供養の方法です。また、ぬいぐるみタイプはペットの手元供養としても人気があるのだとか。

プレートなど置物に加工して飾る

近年はご遺骨を加工する技術が進化し、遺骨を粉状にしてガラスに封入したり、陶器や金属に練り込んだりもできるそうです。それらの加工から生まれるのが、「オブジェ」や「プレート」などのメモリアルな置物。「メモリアルオブジェ」「エターナルプレート」とも呼ばれています。
パウダーにしたご遺骨を素材に混ぜて加工するため、さまざまなカタチに加工するのが可能で、色やデザインも多彩。プレートなどには刻印もできるので、故人の名前や生没年を記す人が多いようです。
飾り方は自由ですが、仏壇に安置したり、ミニ骨壺の安置と同じように祈りのスペースをつくったりする人が多いそう。ご家族が集うリビングなどにインテリアとして飾ってもいいでしょう。

アクセサリーにして身につける

ご遺骨の加工品として人気なのが、アクセサリー。「メモリアルジュエリー」「遺骨アクセサリー」とも呼ばれ、身につけられるのが大きな魅力です。
ご遺骨のアクセサリーにはさまざまなタイプが存在し、近年は種類が増えています。ご遺骨のなかの炭素を取り出し、高温・高圧をかけて人工ダイヤモンドをつくったり、ご遺骨を含んだセラミック核から真珠層を生成する遺骨真珠にしたりと、ご遺骨加工の技術は年々進化。微量のご遺骨を樹脂で固めてペンダントや数珠にする方法もあり、ダイヤや真珠などの加工ジュエリーに比べると安価につくれます。
さらに、加工せずに身につけられるタイプもあります。例えば「カロートペンダント」「メモリアルペンダント」と呼ばれるご遺骨アクセサリーは、カプセル状になっているペンダントトップに粉骨したご遺骨の一部を入れるやり方。商品購入後にご自身でセットするので加工の必要がなく、費用も抑えられます。

メリットがいっぱい! 手元供養の魅力とは。

近年、社会的な広がりをみせている手元供養。数多くある魅力やメリットのなかから、いくつかご紹介しましょう。

故人を身近に感じられる

手元供養では、故人のご遺骨を〈すべて〉もしくは〈分骨〉してご自宅に保管します。また、アクセサリーなどに加工すれば日常的に身につけることも可能。大切な故人の一部といっしょに過ごせるという行為は喪失感を感じている人の心を落ち着かせ、また見守られているような安心感も与えるのではないでしょうか。

お墓参りの手間を軽減させる

遠方にお墓がある場合、お墓参りは金銭的にも時間的にも大きな負担がかかります。たとえ近距離の納骨堂などに納めていても、お参りのためには足を運ぶ必要があります。しかし、手元供養ならご自宅のなかで故人のご遺骨に手をあわせられます。仕事などで日々忙しくしている方や、歳を重ねて体力に自信がなくなった方でも、暮らしのなかで気軽に供養できるのです。

金銭的な負担が軽くなる

新しくお墓を購入すると、100万円以上の費用がかかるといわれています。さらにお墓の維持管理のためのコストも必要となるでしょう。
手元供養ではお墓を建てないという選択もでき、その場合は金銭的な負担はかなり軽くなります。また、ご自宅でのお骨の保管方法は多くの種類から選べ、決まりごともないため、新しい物品を購入しなくても手元供養はできるのです。 とはいえ、ジュエリーなどご遺骨の加工は高額。手元供養でも、費用がかさんでしまうケースがあるのを認識しておきましょう。

宗教・宗派にとらわれず自由に供養できる

お墓や仏壇は、宗教・宗派によって仕様が異なります。現代では墓石の形状や仏壇のデザインはバリエーションの幅が広がっていますが、まだまだ宗教・宗派のしきたりに従うのが一般的です。
しかし、新しいスタイルである手元供養にはこれといった習わしがありません。ご遺骨を仏壇に安置してもいいし、身につけて楽しんでもいいのです。お好みのカタチで供養できる自由さがあるのも手元供養のメリットです。

省スペースでの供養が可能

手元供養はご遺骨を手元で保管すること。保管方法はいろいろあり、コンパクトなものが多いのが特徴です。マンションにお住まいで仏壇を設置する余裕がない方でも、省スペースで供養の空間をつくれるのは手元供養の魅力でしょう。
また、 祈り台(ステージ)など販売されている手元供養用の商品もバリエーションが豊富。インテリアになじむデザインも多いので、明るくおしゃれに故人を供養したい方に適しています。

よくないと考える人もいる!? 手元供養の注意点。

手元供養は新しい供養方法。現代の生活様式や考え方にマッチしている反面、伝統的な弔いを好む方から理解を得られない場合もあるようです。トラブルにつながらないよう、手元供養のデメリットや注意点も把握しておきましょう。

周囲から理解を得られない場合がある

手元供養が知られるようになったのは2005年からだといわれ、まだまだ歴史の浅い供養方法です。そのため、お墓に納骨するなど従来の供養方法を好んでいる方からは理解されない可能性があります。また、なかには〈遺骨をいつまでも自宅に置いていると故人の魂が成仏できない〉と考える人もいるようです。
手元供養を選ぶ場合はご家族と十分に話し合い、“なぜ手元供養をしたいのか”などの理由を説明して理解を得ておきましょう。後からトラブルになってしまう恐れもあるので、相談せずに決めてしまうのはNGです。

ご遺骨の保管に注意が必要

高温で火葬されたお骨は滅菌状態ですが、保管方法が悪いとカビが生えてしまいます。カビは高温多湿の環境を好みます。ご遺骨は〈寒暖差がなく直射日光が当たらない〉〈湿度が低く風通しがいい〉場所で保管しましょう。また、〈ご遺骨を素手でさわる〉〈骨壺のフタを開ける〉行為もカビの原因になってしまうため厳禁。ご遺骨といっしょに乾燥剤を入れておく予防方法もあります。
また、カビ予防にはご遺骨を空気にふれさせないことも大切。保管容器はしっかり密閉できるものを選び、フタを開けてなかを確認する行動も控えてください。

紛失してしまう恐れがある

ご遺骨を加工したアクセサリーは身につけられるメリットがある一方で、外出先で紛失したり、どこかに忘れてきたりするなどの危険性を秘めています。また、洪水や地震、火事などの災害時には、ご遺骨を持ち出すことが困難になったり、破損・紛失してしまったりする恐れもあります。ご自宅での保管は、お墓に納骨する場合より紛失や破損のリスクが高まることを覚えておきましょう。

供養できなくなったら、ご遺骨の扱いに困る

手元供養をしていた人が亡くなった場合など、供養ができなくなるとご遺骨の行き先を決めなくてはなりません。次世代が手元供養を引き継げるなら問題ないのですが、いないときは残された人がご遺骨の扱いに困ります。
周囲の人の負担にならないよう、ご自身が管理できなくなったときのご遺骨の行き先を決めておきましょう。
手元供養していたご遺骨の行き先は、〈お墓や永代供養墓に納骨する〉〈散骨する〉〈樹木葬にする〉のほか、ご遺骨が少量であれば〈棺に入れていっしょに火葬してもらう〉ことも可能だそう。どうするのかが決まれば事前に周囲へ伝え、そのときのために備えておきましょう。

手元供養の相談はどこにすればいいの?

手元供養をしたいと願っても、具体的にどう進めればいいのか? とまどう方も多いのではないでしょうか。手元供養のやり方に決まった流れはありませんが、まずはご家族での話し合いをおすすめします。そこで、〈なぜ手元供養にしたいのか〉〈どのようなスタイルが適しているのか〉などを議論し、手元供養の方法を決めましょう。そのうえで、業者へ依頼。近年は手元供養を取り扱う業者が増え、専用の商品もバラエティー豊かに販売されています。オンラインで手軽に依頼・購入できるところもあるので、いろいろチェックしてみるといいしょう。
また、葬儀社へ相談するのもおすすめ。多くの葬儀社はお葬式だけでなく、その後の供養方法の相談にものっています。葬儀社にいるスタッフは弔事のプロ。〈お葬式のことじゃないから…〉と遠慮せず、手元供養についても気軽に相談してみてください。

佐々木 昌明ささき まさあき

佐々木 昌明ささき まさあき

葬祭現場にて実務経験を重ねた後、館長として25年以上の経験から儀式、法要など多岐にわたり終活や自分史をテーマにしたセミナー講師やパネルディスカッション等多くの活動を行う。
また、東日本大地震の際には現地へ赴き、被災地支援にも携わる。
●保有資格
・葬祭ディレクター技能審査制度(厚生労働省認定)
1級葬祭ディレクター
・一般財団法人冠婚葬祭文化振興財団認定 
上級グリーフケア士

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