お葬式が終わったあとにする、いろいろなこと。
お葬式コラム
注目を集めている海の自然葬「海洋散骨」とは?
人は亡くなると火葬され、お骨になります。故人のご遺骨はお墓に納めるのが一般的ですが、現代は供養方法が多様化。お墓に納骨しないスタイルも登場し、なかでも海の自然葬「海洋散骨」への人気が高まっています。
人気とはいえ、海洋散骨は新しいスタイル。疑問や不安をもつ方も多いのではないでしょうか。みなさまに安心してお選びいただけるよう、こちらのコラムで2回にわけて海洋散骨を特集。前編となる今回は、〈海洋散骨とは?〉という基礎知識やメリット・デメリットなどをご紹介します。
海洋散骨は、海に還れる自然葬。
「海洋散骨」とは、ご遺骨を粉末状の遺灰にして海にまく供養スタイルのこと。海で供養することから「海洋葬」とも呼ばれます。
海洋散骨は、自然葬のひとつです。自然葬とは、火葬後のご遺骨をお墓に納めるのではなく、自然へと還す供養。地球上の自然界は、さまざまな物質が絶えず循環して成り立っています。自然葬はこの偉大な循環サイクルにならい、〈ご遺骨と自然を一体化させて人間も自然に回帰していく〉という考えが基礎となっているといわれています。
自然葬では、さまざまな自然の地で故人のご遺骨を供養します。主なところは、山・海・空。そのなかの海という場所に亡くなった人のお骨を還す、〈海の自然葬〉が海洋散骨なのです。
今なぜ、自然葬が選ばれているの?
日本では昔から、故人のご遺骨はお墓へ埋葬するのが一般的です。しかし、時代とともに社会のあり方が変化し、少子高齢化などが進んだことからお墓の継承がむずかしくなっているご家庭がでてきました。さらに、さまざまなサービスが生まれている現代では、昔ながらの形式にとらわれない新しい埋葬サービスが次々と登場。供養スタイルの多様化が進んだことから、お墓を必要としない人や自然への回帰に魅力を感じる人たちが自然葬を選択するようになったといわれています。
また、お墓を新しく建てるとなると高額な費用が必要です。既存のお墓を受け継ぐ場合でも、管理費や維持費などそれなりのコストがかかってきます。子どもや孫などの次世代に負担をかけたくないという思いから、ご本人が自然葬を希望するケースも少なくないようです。
納骨と散骨の違い
日本では、亡くなった方のご遺体はお葬式後に火葬されます。火葬後に残ったお骨は骨壺に収められ、ご遺骨として大切に扱われます。このご遺骨をお墓などに納めて供養するのが「納骨」。お墓などに埋める(納める)ことから、「埋葬」ともいわれます。
一方の「散骨」は、粉骨して粉末状なったご遺骨を指定した場所に〈まく〉行為。まいたご遺骨は広く散っていくため、お墓のように埋葬場所を特定できません。しかし、粉状のご遺骨が自然界に溶け込んで一体化するため、その自然全体を供養場所と考えることができます。
海洋散骨のルール。そもそも遺骨を海にまいていいの?
日本では散骨という供養方法になじみがないため、〈そもそも散骨をしてもいいものなのか?〉という疑問をもってしまう方がいるかもしれません。ご安心ください。現在の日本において散骨という行為は法的に問題なく、節度をもって行えば違法にならないのです。
日本には「墓地、埋葬等に関する法律」があり、許可のないところにご遺骨を埋葬することは禁じられています。しかし、海洋散骨は土に埋める埋葬ではないため、こちらの法律には違反しません。さらに、日本では「刑法190条(死体損壊等罪)」という法律も定められています。そのなかには〈死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の懲役に処する〉との条文があり、ご遺骨を〈そのままの状態〉で捨てたり、放置したりすると罰せられると記されています。そのため、海や山など自然界へ散骨をする場合は、ご遺骨を〈2mm以下に粉砕した〉粉骨の状態にして実施するのがルールです。
海ならどこでも散骨してもいいの?
散骨をする行為は法律で問題ないとされていても、自由気ままに行っていいわけではありません。日本においての散骨は〈節度をもって実施する〉という条件のもとで許可されています。節度をもつということは、〈周囲の環境や人に迷惑をかけない〉のが最低限のマナー。散骨する海の場所にも、守るべきルールが存在するので注意してください。
海洋散骨ができる場所は、陸地から離れた海域や人のいない沿岸が基本。陸地から離れている海域でも漁業者の迷惑にならないよう、漁場や養殖場の周辺は避けられます。さらに、近辺の住民や海水浴客に影響がでる海岸や浜辺の散骨はご法度。海以外の河川や湖での散骨も禁じられています。
このように、海洋散骨はルールやマナーを厳守しなくてはなりません。知識のない素人が、個人で実施するのはむずかしいでしょう。海洋散骨など自然葬を希望される大半の方は、サービスを取り扱っているプロの業者に依頼するようです。
海洋散骨のメリット。どのような理由で選ばれているの?
供養方法が多様化している現代においても、ほとんどのご遺骨はお墓に納骨されます。海洋散骨へのなじみは、そう深くはありません。とはいえ、近年になって需要が高まっているのは、多くの人がその魅力を感じているから。海へ散骨する供養の、代表的なメリットをご紹介しましょう。
自然に還りたいという願いが叶う
自然への回帰は、海洋散骨の大きな魅力。死後、母なる海とも表現される海へ還れる供養にロマンを感じる方もいらっしゃるでしょう。
また、自然を愛していた故人であれば、生前から「死んだら自然に還りたい」「自然のなかで眠りたい」と自然葬への憧れをもっていたかもしれません。そんな故人の想いを叶えられるのが海洋散骨。さらに、故人の気持ちを尊重した供養が実現できることで、ご家族の心も満たされるようです。
費用が抑えられる
通常、海洋散骨は業者に依頼するので、サービス内容分の料金を支払わなくてはいけません。しかし、新たにお墓を建てたり、納骨堂などにご遺骨を納めたりすると高額な費用がかかります。お墓がすでにある方でも、納骨式などでの僧侶へのお布施やお墓を維持するための管理費など諸々の費用が発生します。海洋散骨ではそれらを必要としないため、埋葬に関わるご家族の負担はかなり抑えられます。
次世代への負担を減らせる
少子高齢化や核家族化が進む現代では、お墓の維持が社会問題になっています。お墓を受け継ぐ人がいないなどの理由から、墓じまいを選択する人も増えているようです。
ご遺骨をまく散骨は基本的にお墓を必要としないため、維持管理の義務が発生しません。子どもや孫など次世代への負担を軽減できるのも、海洋散骨のメリットといえます。
海を見て故人を偲べる
すべての海はつながっています。海はどこかで通じあっているため、特定の海域に散骨したご遺骨でも世界中の海に散らばっているかもしれません。広い意味で考えれば、海全体が故人のお墓ともいえるのです。
海洋散骨をすると、お墓参りという特別な供養はできません。しかし、近所や旅先で美しい海を見たとき、残された人は〈大切なあの人がこの海のどこかで眠っている〉と思え、肌にあたる潮風でも亡き人を感じることができるのではないでしょうか。海洋散骨によって、世界中の海で故人を偲べるのです。
海洋散骨のデメリット。どんなことに注意が必要?
どのような供養スタイルでもメリットとデメリットがあります。利点だけでなく、難点もしっかり把握したうえで選択し、納得のできる海洋散骨をしましょう。
お墓参りができない
日本には故人を供養する風習があり、お墓参りもそのひとつ。命日やお彼岸、お盆などのタイミングでお墓に手を合わせ、故人があの世で安心して暮らせるよう祈ります。
供養において、お墓は大切な拠り所です。お墓がないと節目節目のお参りができず、さみしく感じる人もいるでしょう。また、業者を介して散骨すると散骨証明書が発行されますが、証明書以外でカタチに残るものがないのも現状です。
散骨しても折々の供養を大切にしたいと考えている方は、ご遺骨の一部のみを海にまく方法がおすすめ。残りのご遺骨は「手元供養」にしてご自宅で保管し、日常のなかで供養するといいでしょう。
周囲の理解が得られないケースもある
時代とともに供養方法が多様化しているといっても、多くのご遺骨はお墓に埋葬されています。海洋散骨は、まだまだ一般的ではありません。伝統的な埋葬をよしとする人もたくさんいるため、お墓がないことを受け入れてもらえない可能性もあります。現状として先祖代々のお墓がある場合は、〈そのお墓をどうするのか?〉という問題も生じてくるでしょう。
供養に関しての考え方は、人それぞれです。親族など周囲の人には必ず事前に相談し、なぜ海洋散骨をするのかを丁寧に説明。理解を得たうえで決定しましょう。
ご遺骨が二度と戻らない
お墓や納骨堂にご遺骨を納める場合は、納骨後でも取り出しが可能です。しかし、散骨をしてしまうとご遺骨は海のなかへ散らばっていき、二度と手元に戻りません。あとから〈やっぱりお墓を建てたい〉と考えても、ご遺骨は納められないのです。
また、散骨するためにはご遺骨を2mm以下に粉砕するのがルール。大切な人のお骨を砕くことに抵抗を感じてしまう人もいるようです。
散骨するご遺骨の範囲に決まりはなく、〈すべて〉でも、〈一部〉でもかまいません。故人のご遺骨が残らないことにさみしさを感じる方や粉骨に心を痛める方は一部のみを散骨し、残りはお骨のまま手元に保管するといいでしょう。
海洋散骨を失敗しないポイントは?
海洋散骨はひとつの供養スタイルとして認められているもので、行ってもなんら問題ありません。
しかし、自然に還るといった美しいイメージだけで決断してしまうと、後悔してしまったり、トラブルにつながったりするケースもあるようです。
せっかくの海洋散骨で失敗しないよう、押さえておくポイントをいくつかご紹介します。
親族や菩提寺など周囲の人に事前相談しておく
海洋散骨は近年人気が高まっていますが、世間に広く普及しているわけではありません。伝統的な宗教儀式を重んじる人にとっては、受け入れがたい供養方法でもあるでしょう。
親しい人でも供養の考え方は異なります。それを踏まえて、親族をはじめとした周囲の人に相談しましょう。反対する人がいればその意見に耳を傾け、海洋散骨を選択する理由を丁寧に説明して理解を得てください。生前に本人が海洋散骨を希望している場合は、エンディングノートなどを活用して書面で残しておくといいでしょう。
また、菩提寺への相談も必須。住職に海洋散骨を望んでいる旨を説明し、承諾してもらいます。さらに、〈今あるお墓をどうするのか〉も話し合ってください。墓じまいをする場合は檀家をやめる「離檀」につながるため、離檀料が発生する寺院もあります。トラブルにならないよう、細かく確認しておきましょう。
ルールやマナーを守る
〈ご遺骨を2mm以下のパウダー状にする〉〈陸地から離れた海域に散骨する〉など、海洋散骨にはルールが存在します。自治体のなかには散骨に関する条例を設けているところもあるので、条例に従いながら正しく散骨しましょう。
また、海で楽しんでいる海水浴客など周囲の人に迷惑をかけないのもマナー。例えば、散骨当日に喪服を着て乗船場に現れると、近辺で遊んでいる人が暗い気持ちになったり、違和感をもってしまったりする可能性があります。そのため、海洋散骨に参加する人は平服を身につけるのがよいとされています。
信頼できる業者に依頼する
海洋散骨は個人で行うことも可能ですが、守るべきルールやマナーがあるため業者に依頼するのが一般的。需要が高まっていることもあり、近年は取り扱う業者が増えています。ただし、なかには悪質な業者も存在しており、〈高額な追加料金を請求された〉〈ルールを守った散骨をしてもらえなかった〉などの業者トラブルも実際に発生しているようです。
満足のできる海洋散骨の実現は、業者選びにかかっているといっても過言ではありません。必ず複数社から話を聞き、詳細な見積もりをだしてもらったうえで納得できる内容の業者を選びましょう。料金の安さだけを売りにしていたり、ネットだけのやりとりで完結させようとしたりする業者は危険。避けた方が無難です。