お葬式コラム

エンバーミングをしたい! 費用や方法を具体的に教えて。

ご遺体を美しい姿で長期保存できる「エンバーミング」。欧米では一般的な技術で、アメリカにおいては90%以上のご遺体に行われているといわれています。 逝去後から短期間で火葬する日本では広く普及していませんが、〈故人を美しい姿にしてお別れしたい〉などの要望から、近年は需要が高まっています。
今回のコラムではエンバーミングを取り上げ、具体的な費用や方法まで詳しくご紹介。エンバーミングが気になっているという方は、ぜひご覧ください。

エンバーミングとは、どのような技術?

「エンバーミング」とは、ご遺体に消毒・殺菌などの防腐処置を行い、修復も施すことで〈生前のような美しい姿でご遺体を長期保存できる〉技術のこと。「遺体衛生保全」「死体防腐処理」とも呼ばれ、日本では1974年に川崎医科大学ではじめて導入されました。 施術は誰でも行えるわけではなく、専門機関であるIFSA(一般社団法人 日本遺体衛生保全協会)でライセンスを獲得した「エンバーマー」のみが可能。専門技術者であるエンバーマーがご遺体を生前に近い状態に整え、長期保存できるよう衛生処置を施します。
エンバーミングは欧米を中心に発展してきましたが、その理由は埋葬方法の風習にあります。欧米で大勢の人が信仰するキリスト教では、死者の復活を信じているため土葬が主流。自宅から遠く離れた場所で死亡してもご遺体を火葬できず、そのまま運ばなければなりません。さらには、土の中で腐敗が進んだご遺体から悪臭や細菌が拡散する恐れもあり、それらを予防するためにも防腐処理をしっかりしておく必要があったのです。
火葬が定められている日本では、エンバーミングは必要のない処置だという見方もあります。しかし、近年はウイルスによる脅威もあったため、ご遺体を消毒・殺菌することに重きを置く傾向にあります。また、エンバーミングには〈生前のような美しい姿でお別れできる〉という特長もあります。欧米のように遺体を衛生的に保存するといった目的だけでなく、情緒的な魅力に惹かれて選択されているご家族も多いようです。

エンバーミングでは、なにができるの?

ご遺体を消毒・殺菌して衛生的な状態にし、生前のような姿に修復するエンバーミングによって、多くのことが可能になります。

故人らしい姿と表情を取り戻せる

ご遺体を修復して美しく整えるのも、エンバーミングの大きな役割。人が亡くなる原因はさまざまです。闘病生活が長ければ痩せて頬がコケたり、事故ならば顔に傷がついてしまうかもしれません。エンバーミングでは特殊な技術で損傷箇所を修復でき、痩せてしまったフェイスラインをふっくらさせることも可能。修復したお顔には化粧を施せ、生前のような美しい姿を取り戻せます。

腐敗を防止して長期保存できる

ご遺体は死後直後から硬直がはじまり、腐敗が進みます。エンバーミングは薬剤によって体内からの腐敗を防止。常温で10日〜2週間程度は保存でき、お葬式や火葬までに時間がかかってしまう場合でもあせらずに安置できます。また、時間に追われるようにバタバタとお別れするのではなく、心を落ち着けて故人を見送りたいというご家族の願いにも応えられます。

感染症を予防できる

近年は感染症で死亡される方が増えてきました。また、ご遺体の腐敗が進むと雑菌が発生し、時間とともに繁殖してしまう恐れもあります。
エンバーミングはご遺体を殺菌・消毒するため、衛生的な状態をキープ。細菌やウイルスなどの感染を予防できるので、お子さまやお年寄りといった免疫力の低い方でも安心して故人のお顔にふれたり、手を握ったりできます。

ドライアイスを使わずに安置できる

通常、ご遺体の安置ではドライアイスを使用します。逝去から短期間でお葬式や火葬を執り行える場合は問題ありませんが、長期間となるとドライアイスでの対応は困難。3日以上の安置が必要な場合、ドライアイスだけの冷却では保存できません。
また、お棺にドライアイスを入れると霜や凍結の心配があり、ご遺体も冷え切った状態になります。一方のエンバーミングではご遺体を冷やす必要がなく、硬直する心配もありません。ご家族は違和感なくご遺体とふれあえるでしょう。

ペースメーカーを取り外せる

人工的に心臓を動かす機械である「ペースメーカー」は、不整脈により心臓のスピードが遅くなったときの治療として胸部に埋め込まれます。このペースメーカーにはリチウム電池が使用されているため、そのまま火葬すると電池が破裂。ご遺体や火葬炉の破損につながります。さらには、火葬場の職員にも危険が及びます。そのため、ペースメーカーを装着しているご遺体は火葬前に届け出が求められます。
実は、エンバーミングでペースメーカーを取り除くことが可能。デバイスを取り除くために切開した箇所も丁寧に縫合・修復してもらえ、あまり目立ちません。

エンバーミングで、できないことはあるの?

多くのことができるエンバーミングですが、対応がむずかしい処置もいくつかあります。そのひとつが、腐敗が進んでしまったご遺体の修復。エンバーミングはあくまで腐敗予防の処置なので、皮膚の色が暗く変化していたり、強い臭気が漂っていたりするご遺体の修復は不可能です。
また、病気や加齢などで関節が固くなって曲がってしまった身体を伸ばすのも困難。ただし、死後硬直でご遺体の筋肉が硬化している場合は、マッサージでほぐすことができます。ちなみに、エンバーミングを施したあとのご遺体は死後硬直する心配がありません。

エンバーミングの方法。どんな流れで行うの?

エンバーミングは欧米では広く普及していますが、日本においてはまだまだなじみの浅い技術です。 エンバーミングに興味をもっている方にイメージしてもらえるよう、一般的な流れと方法を具体的にご紹介します。

1:エンバーミングの依頼

現在、多くの葬儀社がエンバーミングサービスを取り扱っています。エンバーミングの申し込みは葬儀社を通して行うといいでしょう。
流れとしては、〈逝去後に葬儀社へ連絡→葬儀社が病院へご遺体をお迎え→安置場所へご遺体を搬送して安置→お葬式内容の打ち合わせ時にエンバーミングを依頼〉というのが一般的なようです。生前からエンバーミングに興味があるという方は、事前相談や生前予約で相談しておくとスムーズです。

2:必要書類の提出とイメージ写真の準備

エンバーミングを行うためには、書類を提出する必要があります。ひとつは「エンバーミング依頼書(同意書)」。故人や依頼主の名前のほか、葬儀社の情報も記入します。故人が亡くなっていることを証明する「死亡診断書(死体検案書)」の提出も必要です。 さらに、故人の生前の写真を渡すと、エンバーマーが修復や化粧をするときの参考になります。イメージを共有するためにも、いくつか準備しておくといいでしょう。

3:ご遺体を施設へ搬送

安置している場所からエンバーミングが施せる専門施設へ、ご遺体を搬送します。エンバーミング施設は全国各地にあり、葬儀社が連絡を入れて施術可能な施設を予約。葬儀社が用意した車でご遺体を施設まで運びます。

4:ご遺体を消毒・洗浄

搬送したご遺体をエンバーミングテーブルに安置し、着衣をとります。皮膚やカラダの状態を確認したのち、消毒液で全身を消毒・殺菌します。その後、身体を洗浄。鼻や口のなかもコットンなどを用いてきれいにします。

5:洗髪・洗顔などで整える

ご遺体の髪と顔を洗います。状態によってはヒゲや産毛を剃り、保湿剤などを塗って肌を保護。頬がこけている場合は、含み綿などでふっくらさせることが多いようです。最後は目や口を閉じた状態にし、やすらかな寝顔へと整えます。

6:防腐保全処置をする

エンバーミングでは、ご遺体を長期保存できるよう血液に防腐液を注入します。そのために、まずは動脈と静脈を切開。ご遺体の状態にもよりますが、それぞれ約1cm〜2cmとわずかな切開ですむようです。
動脈より防腐液を注入し、静脈からは血液を排出。ご遺体をマッサージしながら防腐液を全身に行き渡らせると、顔色に赤みが戻ります。さらに、腹部に小さな穴を開けて腹部と胸部に残っている体液や腐敗しやすい物質を吸収。残存物を取り除いたあとに防腐液を注入します。

7:切開部分を縫合し、修復と洗浄を行う

防腐液を入れるために切開した部分を丁寧に縫合。事故や病気などで損傷しているところがある場合は特殊技術で修復を施し、できる限りきれいにします。最後に全身を洗浄し、拭き上げます。

8:整髪し、衣装を着せる

髪を乾かしてスタイリングし、表情も改めて整えます。その後、指定された衣装をご遺体に着付け。宗教・宗派に則った装束を着せるのが定番ですが、故人が生前に好んでいた洋服など、ご家族から指定された衣装を身に着けさせるケースもあります。希望がある場合は、葬儀社を通して伝えておきましょう。

9:化粧をする

ご家族の要望に応じて、ご遺体に化粧を施します。メイクアイテムはご遺体用に開発されたものを使用されることが多く、亡くなった方でも違和感なく自然に仕上がるようです。故人の生前のお写真を渡しておくと、仕上がりイメージの参考にしてもらえます。

10:納棺し、搬送

エンバーミング施設での納棺を希望されている場合は、このタイミングで納棺します。ご家族や僧侶が立ち会う納棺の儀を執り行いたい場合はエンバーミング施設で行わず、ご自宅などの安置場所で納棺しましょう。 ご遺体を納棺したお棺、または納棺していないご遺体を、エンバーミング施設から安置場所へ搬送します。
以上が、一般的なエンバーミングの流れです。処置時間はご遺体の状態にもよりますが、おおよそ3時間〜4時間。搬送時間も含めて半日程度を目安にしておくといいでしょう。

エンバーミングの費用。いくら必要?

エンバーミングをしたいと考えたとき、一番気になるのが費用ではないでしょうか。料金はサービスを提供する会社によって多少は変動しますが、どこで頼んでも15万円〜25万円程度が相場になっています。
というのも、専門機関であるIFSA(一般社団法人 日本遺体衛生保全協会)がエンバーミングの基本料金を定めているから。その基本料金が基準となり、ご遺体の状態やサービスの内容によって金額が変わっていきます。
エンバーミング料金には、以下の内容が含まれていることが多いようです。
【エンバーミング料金に含まれるもの – 例】
●消毒・殺菌など、防腐保全の処置
●損傷などの修復 ※状態によって追加費用が発生する場合もあります。
●衣装の着付け
●整髪やお化粧
●安置場所 ⇄ エンバーミング施設の搬送料金
依頼した葬儀社によっては、安置場所からエンバーミング施設への搬送料金や納棺などの費用が別途かかる場合もあるようです。会社によって含まれる内容が異なるので、申し込む前に詳細な内容とお見積りを確認しておくとトラブルにつながりません。

佐々木 昌明ささき まさあき

佐々木 昌明ささき まさあき

葬祭現場にて実務経験を重ねた後、館長として25年以上の経験から儀式、法要など多岐にわたり終活や自分史をテーマにしたセミナー講師やパネルディスカッション等多くの活動を行う。
また、東日本大地震の際には現地へ赴き、被災地支援にも携わる。
●保有資格
・葬祭ディレクター技能審査制度(厚生労働省認定)
1級葬祭ディレクター
・一般財団法人冠婚葬祭文化振興財団認定 
上級グリーフケア士

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